この事例の依頼主
70代 男性
80代の男性Aさんが亡くなり、約半年後に、その奥様のBさんが、続けて、亡くなりました。相談は、Aさんの弟Cさんからでした。Aさんは兄弟の中で長男でしたが、Bさんも含めて、兄弟達との関係は密接で良好でした。他方で、AさんBさんの息子さんは先に亡くなっており、その妻Dさん、孫Eさんが残されている状況でしたが、AさんBさんにとっては、介護のことで、嫁であるDさんに対する不満があったようです。そのような中、Bさんが亡くなった直後、孫のEさんから、Cさんに、「葬儀は自分達だけでやる」という連絡がありました。Cさんとしては、Bさんの死亡をきっかけにEさん、Dさんの態度が急変し、親族にBさんの葬儀に来させないようにして、一族のかかわりを一切なくそうとしているように見え、非常に残念に、また、悔しく感じました。ところで、Aさんは、財産を、孫のEさんだけでなく、Aさんの兄弟にも配分する内容の手書きの遺言書を残しておられました。当初、Cさんとしては、それまでは仲良くやってきたので、この遺言書を持ち出すことはないと思っておられましたが、こうなった以上は何もないままでは終われないということで、当事務所に相談に来られました。
① 自筆の遺言書は、まず「検認」という手続(裁判所で遺言書の内容などの確認をする手続)を取る必要があるため、まずはこの検認手続を取りました。検認の期日で、Dさん、Eさんと初めて会い、遺言の内容、今後のことを含めて一度話し合いがしたいと伝えました。② 日程調整の上、話し合いの場を設定し、そこで、双方の率直な認識や気持ちを伝え合いました。③ その結果、「葬儀は自分達だけでやる」というDさんの言葉の真意や背景の状況、DさんらとしてもAさん、Bさんを大切にする気持ちがあったことなどがはっきりし、一族とのかかわりをなくそうとしているように見えたのは、Cさんの誤解だということがわかりました。④ その後、Cさん達兄弟の側で、今後どうするかを検討した結果、今回の件は、相続に関して新たに請求等をすることはなく、そのまま全て円満に終了するということにされました。
① 認識のズレCさんは、「葬儀は自分達だけでやる」というメッセージを受けてから、Eさんらとやりとりすることはできなくなり、「時が止まった」と話しておられました。Cさんの中での認識(見ている現実)と、Eさんたちの認識に大きなズレ(=誤解)が生じた瞬間でした。② 「誤解」から「認識と思いの共有」へその認識のズレを解消していくきっかけとなったのが、検認とそれに続く話し合いの場でした。話し合いで私が心がけたのは、法律的な主張の言い合いにするのではなく、まずは「それぞれの認識をそのまま表現してもらうこと」でした。それにより、相互に、様々な「誤解」があったことが明らかになり、それぞれの思いや考えていたことが互いに共有されました。その場では結論は出さなかったのですが、帰りのエレベーターで、Dさんから、「一緒に乗れそうですね」という一言があり、全員で一緒に下に降りました。事件の円満な終着点を暗示するような一言で、この案件はきっと合意で終わるだろうと思いましたが、実際にそうなりました。法律的に争おうと思えばいくらでも争いになる案件でしたが、そうすると事案終了後の人間関係が悪化しがちです。それよりも、対話を中心に進めたことにより、相互理解が深まって、人間関係の修復を実現でき、本当の意味で問題を終わりにできた事案だと思います。依頼者のCさんからは、一族としての関係性という観点から、落ち着くべきところに落ち着いたのではないかというコメントをいただきました。