この事例の依頼主
30代 男性
本件は、被告人であるAさんが被害者と飲酒の上での口論の末に、日本酒の一升瓶で頭を何回も殴打した上で、割れた一升瓶で腕を切りつけてしまったという事案です。飲酒の上での犯行であるとはいえ、一升瓶という凶器を用いた犯行であり、しかも、殴打した箇所が頭部であったこと、割れた一升瓶で切り付けていることから命にも関わり兼ねない重大な事件でした。被害者の方の被害感情はかなり強く、捜査段階において被害者の方と示談をすることはできなかったようです。当初は国選弁護人が選任されていましたが、示談が不成立になったことを受けて、国選弁護人に対する不信感が募った家族から、起訴された後に今後の公判手続きを依頼できないかということで当職のところに相談がありました。
本件については、①犯行態様、②被害の重大さ、③被害者の処罰感情、④被告人には同種の前科があることなどに照らすと、このままでは執行猶予はかなり厳しい事案でした。当職としては、弁護人として就任し次第すぐに、再度、被害者宅にご訪問して被告人が反省していることを伝えました。被害者の方は当初は絶対に示談せずに実刑に処してもらいたいという強い処罰感情がありました。当職としても、このままでは説得することが困難であると判断し、Aさんと被害者の方の共通の友人であるXさんに面会し、被害者の方を説得するために協力をしてほしいという要請をしました。そうしたところ、Xさんだけではなく、他の友人たちも被害者の方に示談に応じてもらえるように説得してもらうことができました。Aさんには反省の意をしたためた反省文を毎日、被害者に向けて書くように当職から伝え、それを接見のたびに持ち帰っては被害者の方に読んでもらいました。そうしたところ、被害者の方に最終的に示談に応じていただくことができました。それともに、Aさんの友人に新たな職場の紹介をしてもらい、その職場の社長からもAさんの更生に全面的に協力してもらう旨の確約を得ることができました。また、Aさんは一人暮らしをしていましたが、この事件を機に両親のしたで生活を始めることとし、両親も身元引受人になることを約束してくれました。さらに、Aさんは、飲酒をすると他人に対して攻撃的になってしまうことから飲酒についても今後一切しない旨の宣誓を法廷でしてもらいました。飲酒をしなければ、Aさんは温厚な性格であることから、以前の職場の仲間にも協力をお願いして、Aさんの普段の人柄等に関する「上申書」を作成していただき、それを裁判所に提出しました。さらに、何度も接見をし、「なぜこのようなことをしてしまったのか」について「内省」を深めてもらい、そこでの気づきを日記にまとめるように当職から指示をし、裁判所にその日記を提出しました。公判における被告人質問では、裁判長から通常の被告人質問ではあり得ない異例とも言えるほど長い「補充質問」をされておりました。本人の更生への意欲を確認しているようでした。裁判長も、被告人の量刑について相当悩んだのだと思います。その結果、保護観察付きではありましたが、なんとか執行猶予付きの判決を得ることができました。当職は執行猶予は難しい事案である旨をAさんに伝えていたことから、Aさんも執行猶予が付くとは思っていなかったようで、非常に喜んでいただくことができました。
本件のように犯罪事実については認めていて、量刑(刑の重たさ)が争点になる事案では、検察官が主張・立証してくる「悪い情状」と弁護士が主張・立証する「良い情状」を考慮して、裁判官は量刑を定めることになります。情状の主張・立証は、何かこれを一つ主張・立証すればよいということではなくて、一つ一つの積み重ねが勝負ということになります。それを丁寧に積み重ねることができるかどうかが勝負です。情状立証にもきちんとした「セオリー」があるわけですから、その「セオリー」について弁護士から説明を受けたうえでどのような主張・立証をするのか一緒に考えることが重要です。刑事事件は人生を左右する話ですから、弁護士にすべてを放り投げるのではなく、きちんと説明を受け、一緒に情状立証について考えていくことが肝要です。